就活期の娘に「働いたら負け」と言われた父親が、後から気づいた3つのこと

イメージ写真 就活と社会人初期の支援
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就活が始まって少し経った頃、娘がふと「働いたら負け」「ニートになりたい」と口にしました。

当時よく読まれていた漫画『銀魂』の主人公が口にする台詞です。娘もそれが冗談めかした言い回しであることを承知の上で、わざと軽く言ってみたのだろうと思います。実際、表情も声色も、半分は笑っていました。

ただ、私の耳には、もう半分の音も届いていました。冗談の体裁を借りて、本音も少しだけ混ぜている。そう聞こえてしまったのです。

私はそのとき、何かを言い返したと思います。正確な言葉は覚えていません。ただ、軽口に軽口で返すような気の利いた応酬はできず、たぶん少し真面目な調子で何かを言いました。

表向きには、それ以上の動揺はなかったはずです。普段の食卓のやり取りの一場面として通り過ぎたと思います。けれど、私の中ではざわつきが残りました。「働いたら負け」――この五文字に、私はずっと引っかかっていたのです。

このブログを書きながら、私はずっと自分のかつての関わり方を見直しています。同じように就活期のお子さんから「働きたくない」「働いたら負け」「ニートになりたい」といった言葉を聞いて、表向きは平静を装いながら内側でざわついている父親に、私が遠回りして気づいた三つのことを、お伝えできればと思います。


「働きたくない」と口にする若者は、決して少なくない

まず最初にお伝えしたいのは、就活期に「働きたくない」「働いたら負け」といった言葉を口にする若者は、私たちが思っているよりずっと多いということです。

近年の調査では、「自分にとって、働くことはお金を得るための手段にすぎない」という意識が新卒の学生の間で増えており、逆に「仕事を通じて成長したい」という意欲は大きく低下していることが報告されています。「楽しく働きたい」「仕事と生活を両立させたい」という答えが上位を占め、仕事に対して構えすぎない見方が広がっています。

また、ある専門家は、就職活動を「人生で三度目の自立期」と表現しています。最初は二歳児の頃の第一反抗期。二度目は思春期の第二反抗期。そして三度目が、就活期だというのです。社会に出る直前の若者は、「自分は何者か」「社会で何ができるのか」という大きな問いに、自分一人で向き合わされます。

そう考えると、「働いたら負け」というつぶやきは、堕落の合図ではなく、人生で三度目の自立に向かう過程で出てきた、ごく自然な揺らぎの言葉なのかもしれません。

私が娘の言葉を真ん中で受け止め損ねたのは、この前提を持っていなかったからでした。「働いたら負けなんてとんでもない」という固定観念から聞き始めてしまえば、それはもう、聞いているとは言えません。


気づき1:漫画の口癖を、正論で打ち返さない

私が最初にやってしまった失敗は、娘の「働いたら負け」「ニートになりたい」に、ふつうの大人の正論で応じてしまったことでした。

娘の言い方は、明らかに『銀魂』の世界からの引用でした。漫画の中の脱力した主人公が、社会の重さを軽口で受け流すための呪文のような台詞です。あれは、もともと真剣な議論をするための言葉ではありません。

だから、本来あの場で必要だったのは、私も同じ温度で軽く返すか、「そういうときもあるよな」と相槌を打つことだったのだと思います。漫画の口癖には、漫画の口癖の受け止め方がある。それを大人の社会論で受けてしまえば、会話の温度は一気に冷えます。

正論は、たいてい正しいから、正論なのです。だから、言われた側は反論できません。反論できないかわりに、相手は黙ります。そして、その話題はもう二度と冗談の形では出てこなくなります。

私が娘の言葉に真面目な調子で何かを返したとき、たぶん私は、軽口の入り口を自分の手で閉じてしまいました。本人の感じている重さを、軽口に乗せて少しずつ吐き出していくはずだった道を、ふさいでしまったのです。

子供が漫画の台詞で「働いたら負け」と言ってきたとき、最初に必要なのは、反論ではなく、相槌だったのだと思います。「そうか」「そう思うときもあるよな」――その一言があれば、娘はもう少し先まで言葉を続けてくれた気がしています。


気づき2:言葉そのものより、その奥にある「何か」を聞く

二つ目の気づきは、「働いたら負け」「ニートになりたい」という言葉そのものに引きずられてはいけない、ということです。

子供が漫画の口癖を借りてそう言うとき、その軽口の奥には、たいてい別の何かがあります。

エントリーシートを何枚書いても通らない疲れ。面接で詰められて自分を否定された感じ。同級生が次々と内定をもらっていく中で、自分だけ取り残されたような不安。やりたい仕事が見つからない焦り。社会人として通用するのかという自信のなさ。

これらは、どれも「働いたら負け」とは違うものです。でも、若者の口から出る言葉では、まとめて漫画の台詞に圧縮されてしまうことがあります。冗談の形を借りた方が、口に出しやすいからです。

私の娘の場合も、半分は冗談でも、もう半分には本音が混じっていたと、いまは思います。当時の私は、その「もう半分」を引き出す技術を持っていませんでした。本音の部分にこそ寄り添えばよかったのに、冗談の部分に対して大人の社会論で返してしまったのです。

子供の就活を支援するある専門家は、「就活中の子供は、親が思っている以上に本人なりに必死に頑張っている」と書いていました。私はこの一文を読んで、強く反省しました。「働いたら負け」という言葉だけを切り取ると、何もしていないように見えます。けれど、その軽口の裏で、本人なりに就活と向き合っていた時間が確かにあったはずなのです。

漫画の口癖を聞いたら、そのまま打ち返さず、ひと呼吸置いて、「最近、しんどい?」「何か引っかかっていることがある?」と、奥にある感情の方を聞いてみる。これが、私がもっと早く身につけておくべき態度でした。

エントリーシートの書き方を巡って、かつての私が娘を詰問のように追い詰めてしまった話は別の記事に書きましたが、あのときの私に欠けていたのも、結局はこの「奥にある感情を聞く」という姿勢でした。言葉の表面ばかり追って、奥にある気持ちを置き去りにしてしまっていたのです。


気づき3:親の焦りは、自分の中で処理する

三つ目は、一番難しくて、一番大事な気づきです。

それは、「親の焦りは、自分の中で処理する」ということ。

ある調査では、子供の就職活動について不安を感じたことがある保護者は半数以上にのぼると報告されています。私自身、娘の就活期は、表向きには普段どおりに振る舞っていたつもりでした。進捗をしつこく確認したり、毎日のように就活の話題を持ち出したりはしていません。

それでも、私の内側ではざわつきが消えませんでした。「働いたら負け」のあの一言が頭にひっかかり、いまどんな会社を受けているのか、面接はうまくいっているのか、本当はどう感じているのか――娘が口にしないことを、私の方が勝手に膨らませて、自分の中で何度も反芻していたのです。

口に出さなければ大丈夫、と思っていました。けれど、家の中の空気というのは不思議なもので、はっきりした言葉や態度に出ていなくても、子供は親の不穏な気配を察します。

親の焦りで子を動かそうとすると、二つのことが起きます。

一つは、子供が親の不安を取り除くために動き始めるということ。これは一見、就活が進んでいるように見えますが、子供本人の納得ではなく、親を安心させるための行動なので、長続きしないか、後で大きなしわ寄せが来ます。

もう一つは、子供が動かなくなるということ。親の焦りが大きすぎると、子供は「自分のせいで親が落ち着かない」という罪悪感まで背負わされ、就活の重さと罪悪感の二重の負荷で、かえって身動きが取れなくなります。

私が娘の就活で本当にやるべきだったのは、娘を動かそうとすることでもなく、平静を装って耐えることでもなく、「自分の焦りを、自分の中でほどく作業をすること」だったのだと、いまは思います。父親の内側が静かになっていれば、家の空気も静かになる。当たり前のことですが、当時の私には見えていませんでした。


子供は、親が思うよりずっと、自分の道を見つけていく

三つの気づきを書いてきました。

  • 漫画の口癖を、正論で打ち返さない
  • 言葉そのものより、その奥にある「何か」を聞く
  • 親の焦りは、自分の中で処理する

並べてみると、三つとも「親が引き算をする」という話だと気づきます。何かを言うのではなく、言わない。何かをするのではなく、しない。焦って動かすのではなく、自分の中で焦りをほどく。

これは、若い頃の自分には絶対にできなかった態度です。あの頃の私は、何かをしないと父親としての役目を果たしていないような気がしていました。

でも、娘はあのあと、自分のペースで就活を進め、自分の選んだ場所で社会人になっています。「働いたら負け」とこぼしていた頃の娘は、もうどこにもいません。あの揺らぎは、自立に向かう過程で必要な揺らぎだったのだと、今になってわかります。

私は児童精神科医の佐々木正美さんの本に何度も助けられてきましたが、佐々木さんの「子の後ろを歩く」という言葉は、就活期にこそ深く効いてくる言葉だと感じています。前を歩いて引っ張るのではなく、後ろを歩いて、子供のペースに合わせる。漫画の口癖を聞いたときも、同じ態度でよかったのです。

私自身、まだまだ修行中です。同じように就活期のお子さんから「働きたくない」「働いたら負け」を聞いて、表向きは平静を装いながら内側でざわついている父親の方がいたら、まずは正論を一度飲み込んで、相槌を打つところから始めてみてください。それだけで、子供は軽口の奥にあるものを、もう少し見せてくれるかもしれません。


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