導入
子の進路に「市役所」「公務員」と聞いたとき、ほっと胸をなでおろす父親は、私だけではないと思います。安定している。地元で働ける。世間体もよい。親世代にとって、公務員は今も「安心できる進路」の代表です。
ところが、その安心感そのものが、落とし穴を生むことがあります。
私自身、自治体職員として長年勤め、採用面接にも関わってきました。退職してから振り返ると、「もう少し早く、こういう距離感を持てればよかった」と思うことがいくつもあります。
今日は、子供の市役所就職を目指す父親仲間に向けて、私の現場経験と最新の動向を踏まえて、「親が知っておくべき3つのこと」をお伝えします。
なお、私が在職時に見ていたのは、いわゆる従来型の採用試験です。最新動向については、Webで調べた情報も交えて補足します。
公務員(市役所)を取り巻く近年の変化
「公務員試験はガリ勉系の知識試験」── これは、親世代が持ちがちなイメージです。確かに、私が在職していた頃の地方公務員試験は、教養試験(全国共通の問題)を中心とする筆記試験が大きな関門でした。
ところが近年、採用方式が大きく変わってきています。
一つの大きな流れは、SPI(民間企業の採用で広く使われている適性検査)を導入する自治体の増加です。民間企業との併願がしやすくなることで、受験者層を広げる狙いがあるようです。従来型の教養試験を撤廃してSPI一本にする自治体や、両方を選択肢として用意する自治体など、形はさまざまです。
もう一つの流れは、面接など人物試験の比重が、より高まっていることです。
ただし、私自身の経験から強調しておきたいのは、筆記試験が軽くなったわけではないということです。形式が従来型の教養試験であれ、SPIであれ、筆記には筆記なりの役割があります。この点は教え1で詳しく書きます。
親世代のイメージのまま助言すると、ズレた応援になりかねません。だからこそ、親も最新の動向を踏まえる必要があるのです。
知っておくべきこと1:筆記は事務処理能力を測る大切な試験
「最近は面接重視だから、筆記はそこそこでいい」── そんな話を耳にすると、つい子供にもそう伝えたくなります。
ですが、これは危ない誤解です。
採用側にとって、筆記試験は単なる足切りではありません。一定の事務処理能力があるかどうかを見るための、重要なスクリーニングです。
公務員の仕事は、決められた手順を正確に、期限内に処理する力が日常的に求められます。条例や規則に基づいて書類を作る。住民からの問い合わせに、正しい根拠を示して答える。期限のある申請を正確に処理する。どれも、地味ですが基礎力が問われる仕事です。
筆記試験は、その基礎力の土台があるかを測るためのものです。形式が従来型の教養試験であろうと、SPIであろうと、求められる本質は変わりません。
私が在職中に見てきた範囲でも、筆記試験で苦戦していた職員と、しっかり通過してきた職員では、入庁後の業務処理スピードや正確さに、感覚として差を感じる場面がありました。これはあくまで私の主観ですが、無視できない傾向だったと思います。
親としてつい「面接が大事らしいよ」と聞きかじりの情報を伝えたくなりますが、筆記の真剣さも同じくらい大切です。私自身、筆記試験を「単なる関門」と軽く見ていた時期がありましたが、退職後に振り返ると、それは浅い認識だったと感じています。
筆記試験の対策を「最低限の関門」と軽く見ず、子供が真剣に取り組めるよう見守る ─ これが、まず親が押さえておきたい点です。
知っておくべきこと2:採用側が見ているのは「何を貢献できるか」
面接で採用側が見ているのは、何でしょうか。
私の現場感覚での結論は、こうです。
「この人は、自治体に何を貢献できるのか。貢献しようとしているのか」
この一点に尽きます。
「市民のために働きたい」「地域に貢献したい」── こういう言葉は、ほぼすべての受験者の口から出ます。採用側はその先を見ています。あなたは、具体的に何ができるのか。あなたのこれまでの経験で、自治体の仕事にどう活かせる強みがあるのか。
強い受験者は、自分の経験から、自分の強みを具体的に語れます。学生時代に取り組んだこと、苦労した経験、そこで得た力 ── そういうものを自分の言葉で語れる人は、採用側に「なるほど、この人は入庁後も自分なりの貢献を考えてくれそうだ」と思わせます。
逆に、私が警戒していたのは、いわゆる「口だけ達者な人」でした。立派なことは言うのですが、自分の経験に裏打ちされていない。模範解答を覚えてきた感じが強い。こういう受験者は、入庁してから「言うことと、できることが違う」となりがちで、評価が伸びにくい傾向がありました。
想定問答を丸暗記してきた受験者も、面接が進むと自然に見抜かれます。深掘りの質問をすると、用意してきた答えから外れた瞬間に詰まってしまうからです。
ここで、私自身の反省です。
我が家の子の就活で、エントリーシートの相談を受けたことがありました。本人から相談されたので、添削に関わったのですが、その対話の中で、私は詰問のような問いかけをしてしまいました。「なぜそう書いたのか」「他の言い方はないのか」と。
子の素朴な言葉を、もっと立派な表現に整えようとしていたのです。
でも、採用側の視点で考えれば、素朴でも、自分の経験に根ざした言葉のほうが、立派だが借り物の言葉より、ずっと響くのです。私はそれを、子に対して上手く伝えられませんでした。
(エントリーシートと親の関わり方については、 第5記事「子供のエントリーシートの志望動機が幼稚に見える?」 でも別の角度から書いています)
親が手伝うとしても、立派な表現に整えるのではなく、子が自分の経験から何を語れるかを引き出すスタンスのほうが、結果的に役に立ちます。
知っておくべきこと3:長期に働けるかを見られている
近年、採用面接で特に重視されている視点があります。それは、「この人は長く続けられるか」です。
データの裏付け
これは私の感覚論だけではありません。総務省などの公的なデータでも、若手公務員の早期退職が大きな課題になっていることが示されています。30歳未満の自己都合退職者は、約10年間で約2.7倍に急増したというデータもあります。退職理由は、仕事量の多さ、人間関係、より条件のよい転職先、メンタル不調、モチベーション低下など、さまざまです。
採用側にとって、若手の早期離職は大きな損失です。採用には多くの労力とコストがかかっていますし、入庁後の数年間は、戦力になるための投資期間でもあります。それを終えた途端に辞められてしまうのは、組織として大きな痛手なのです。
面接での定番質問
だからこそ、面接では「長く続けられそうか」を慎重に見ています。
たとえば、こんな質問が定番です。
- 希望の配属先にならなかった場合でも、続けられますか
- 数年後、十年後、自分はどんなふうに働いていると思いますか
- これまでに、困難をどう乗り越えてきましたか
こうした質問の根本にあるのは、「組織の中で、長期視点を持って働けるか」という問いです。
最近は、原因はさまざまですが、仕事が気に入らなかったり、人間関係でつまずいたり、もっと条件の良い自治体や民間企業の転職先が見えたりすると、すぐに辞めてしまう若手が増えています。私が在職していた頃と比べても、その傾向は明らかに強まっていました。
採用側は、こうした傾向を前提にして、面接でも長期視点を持っているかを慎重に見ているのです。
私の反省
ここでも、私自身の反省があります。
私は子の進路を考えるとき、「安定しているところに就いてほしい」という願いを強く持っていました。それ自体は親心として自然なことかもしれません。
でも、その願いは、知らず知らずのうちに子に伝わっていなかったか ── 振り返って、そう思うことがあります。
「公務員は安定しているから」と親が勧めた場合、子もまた「安定しているから選んだ」という動機を持ちやすくなります。これは、面接で問われる「何を貢献できるか」「長く続けられるか」という視点に対して、最も弱い動機の一つです。
親が「安定だから」と勧める。
子が「安定だから」と選ぶ。
どちらも、長期に働く動機としては、心もとないのです。
親への示唆
子に「公務員は安定」とだけ伝えるのは、長期的には逆効果になりうる ── これが私の率直な感想です。
子が長期視点を持てるよう、若いうちから多様な仕事観に触れさせる方が、結果的に強い動機につながります。市役所の仕事の中身を一緒に調べてみる、自治体が直面している課題について話してみる、という関わり方の方が、ずっと実りがあるはずです。
まとめ
子供の市役所就職は、親にとって安心できる進路に見えます。だからこそ、親の口出しが入りやすい。
しかし、近年の採用は「何を貢献できるか」「長く続けられるか」を厳しく見ています。
筆記試験は事務処理能力として依然重要。
採用側が見ているのは具体的な貢献の姿。
そして、長く続けられるかが入念に見られている。
この3つを踏まえると、親ができる一番のことは、子が自分の言葉で語れるよう、長い時間をかけて見守ることだと、私は思います。
私自身も、退職してから振り返ると、もっと早くこの距離感を持てればよかったと感じます。
修行の途中の身ですが、同じ立場の父親仲間の参考になれば幸いです。
(過干渉な親の特徴と抜け出すための具体策は、 看板記事「過干渉な親の3つの特徴」 で全体像を整理しています)

